幼い頃からずっと一緒だったピアノ

3歳の頃、初めてピアノを習い始めました。

最初は、音符を覚えたり、運指を練習するなどの、基本的な鍵盤の練習だったので、ピアノより安価で、メンテナンスの必要も少ない、電子オルガンを使用していましたが、ある程度ピアノ演奏に夢中になったとき、母が、KAWAIのアップライトピアノを購入しました。

家に初めてピアノがやってきた日、「ピアノ教室でなくともピアノに触れられる」喜びで、子供心に胸がいっぱいになりました。

ピアノ教室で出される課題を毎日何時間も練習したり、家族が好きな曲の楽譜を手に入れて練習したり、学校の行事の合唱の伴奏練習をしたり…おかしな表現かもしれませんが、あのピアノの白鍵にも黒鍵にも、それから「ピアノが痛がらないように、そっとしめる蓋」にも、手垢と言う名の、ピアノへの私自身の感情が染み付いていました。

ピアノを始めて10年ほど経った頃、母が病気を患い、その手の病の専門医が多くいる病院のある土地へ引っ越しました。

ピアノは、祖母の家に置いていくことになり、母の治療費の為、ピアノ教室へ通うこともできなくなりました。

数年後、母は亡くなり、私はたまに祖母に会いに行くたび、一人ぼっちになったそのピアノを弾きます。

祖母は「ボケ防止に」と、大人でも簡単に弾ける、ピアノのレッスンを始め、拙い演奏で様々な唱歌を弾いてくれました。

現在私は、音楽に携わる仕事をしています。

自宅のスタジオには、電子ピアノが一台あります。

作曲をする為に鍵盤に指を置きます。

鈍った指をトレーニングする為、昔使っていた楽譜を開き、たどたどしく鍵盤を叩きます。

楽譜に書かれた、ピアノの先生の文字や、幼い頃の私の文字がたくさん書き込まれた楽譜で、見るたびに、あんなに夢中になって向かい合ったピアノのことを思い出します。

祖母は、もう80歳をとうに超え、ピアノを処分することが憚られるから、と、私に処分を頼んできました。

現在の私の住まいは東京の住宅地。

もちろん、わたしの人生の方向を決めるきっかけとなったのがそのピアノですから、処分することを躊躇いました。

いくつか、ピアノの買取サイトを見てみましたが、決して高級なピアノではありませんし、買値も安ければ売値も安いのは一目瞭然です。

ご近所からクレームが来ない限りは、今の私の自宅に、そのピアノを置くことに決めました。

ピアノの配送、長年使用していないピアノの調律…今ある電子ピアノより遥かに費用はかかるでしょうが、また、あのピアノと向かい合って、幼い頃夢中になったときの気持ちを味わいたいと感じました。

それから、もしご近所から騒音のクレームが来たら…買取業者さんへ見積りを取る前に、「音楽に触れてワクワクする」気持ちをたくさんの子供たちに味わってもらえるよう、無償でどこかの施設に提供できたら一番いいな、と考えています。もしくはピアノを売る方法で考えてみようと思います。

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